「想像」は「創造」を生むルーティン

私が中学生の頃、師はよく語られた。
「そのうち、ここに大きな本堂をつくる」
当時の寺は、公民館の解体材を再利用して建てた行堂であった。
私は夢のような話と笑って聞き流していた。
それから12年後、本堂建設の話が持ち上がった。
「私は来る日も来る日もこの丘に登って、
ここに仏塔形式の本堂を建てたいと考えてきました。
お釈迦様を狭い行堂に閉じ込めているのは、実に申し訳ない」
師と設計士のやり取りを聞いて、私は師の本気さに心を打たれた。
そして7年9カ月の歳月をかけ、現在の本堂が完成した。

いまわの際に残された言葉が忘れられない。
「脳裏に描かないものは形にならない。
おまえも立派なお坊さんになろうと自分の理想像を描きなさい。
描いてがんばれば必ず形になる」
後を継いだ私は、師から見ればさぞかし未熟者だったことだろう。
本堂建設の借入金返済ばかり気にする、器の小さな人間だった。
しかし、ふとあの日の遺言を思い出した。
「立派なお坊さんとは、どういう人をいうのだろう」
実行する人、
慈悲深い人、
多言を弄さぬ人、
そして寛容な人。
自分なりに描いてみた理想のイメージ。
30年が過ぎた今もその理想に近づこうとする自分がいる。

まずは理想の姿を演じる意識なしに
本物には近づけない。
できそうにもない自分がいても、
理想の自分が描ければ、
それが自分を支え、励ましてくれる。
いろいろな経験から、
あの日の遺言が確信に変わった。
仏教には「ディヤーナ」という瞑想法がある。
これはイメージする瞑想、「観想」とも呼ばれている。
なりたい自分ややりたいことを意図的に思い描くことで、
どんどん現実化に近づくという瞑想法である。
私は期せずして、このディヤーナを実践していた。

すなわち修行は想像から始まるのである。
理想の自分を脳裏に描き、
ネガティブな思考から脱却するのが修行。
これは何もお坊さんの世界の話だけではなく、
すべての人に通じる法則なのである。
現実という重圧感や失敗を恐れる気持ちが強すぎると、
うまく理想を描けないし、
描いても途中で投げ出してしまうこともある。
それでもディヤーナを続け、あきらめずにがんばれば形ができる。
最初はアバウトでも、次第に具現化することもある。
悪い自己暗示は思いをよどませてしまうが
良い自己暗示は眠っている実力を発揮させる。
眉を上げて夢の輪郭に向かうか、
それとも暗闇に沈むか、
物事の成就、不成就の鍵は自分自身にかかっている。
結局、人生の演出家は自分の心なのである。

ポジティブに考え、努力をしても実らないことはある。
うまくいかないと、他人の目も気になるだろう。
しかし、他人はもともと好き勝手なことを言う存在だ。
夢想家だと周囲から笑われるかもしれない。
しかし、ダメだったらやり直せばいい。
たとえ成果として実らなくても、
何もしないよりやってみたほうがずっといい。
次はうまくいくよう勉強し、
より深く研究して臨めばよいだけだ。

まず始めるべきは
「悪い想像」を封印してポジティブな行動を開始すること。
「良い想像」で成果が出ると、次にすべき行動が見え、
その行動がさらに次の行動を呼ぶ。
そんな普遍の法則を引っ提げて、
私はアメリカに仏教道場をつくることにした。
「良い想像」と行動から成る、日々の習慣(ルーティン)。
「想像」は
「創造」を生む「ルーティン」なのだから。

みずすまし45号(令和2年7月3日発行)

みずすまし45号表紙

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