香りとぬくもりにいぶされて

子どもへの虐待が頻発している。
先般も、千葉県柏市で栗原心愛ちゃんが、
その少し前には、
東京都目黒区で野田結愛ちゃんが帰らぬ人となった。
逮捕されたのは両親。
どちらも背景には、夫から妻へのDVがあった。
母親は恐怖心から見て見ぬふりをした。
心愛ちゃんは、十才、
結愛ちゃんは、五才。
「愛」という名前の文字が痛々しい。
思いを込めて親が名づけたはずなのに。

先日、ニュースを見た。
二歳くらいの幼児を蹴る母親の姿。
テレビの中に入り込んで、
母親を殴りつけたい気持ちになった。
妻にとがめられた。
「そういう思いが虐待につながるのです」
「そうか」と反省した。

最近、娘の家庭内暴力問題に悩む母親が相談にやって来た。
祖母に乱暴をはたらき警察に連行され、
精神医療センターに収容されてしまった。
祖母の身体を拭いてあげたり、
美味しい食事をつくってあげたり、
そんなやさしい一面もあったという。
中学時代にいじめられて不登校になり、
仕事を転々とする自分を卑下したのか、
不満のはけ口に、妹をいじめた。
祖母や母親が妹をかばい、娘は次第に孤立した。
「一番やさしい孫だったのに」
と、年老いた祖母は泣いた。
「これが娘の立ち直るきっかけになると信じたい」
と、母親も涙をながした。

愛する心がありながら、
暴力をふるってしまうのはなぜなのか。
やり場のない、
やるせない、
過去の暗い感情に形成された生い立ち。
満たされない感情を暴力に変換してしまう衝動性。
理由はいろいろあろうが、
励まそうとする言葉が
安っぽく感じられた。

弱者への具体的な防御策が
家庭、学校、地域社会全体に求められている。
一人ひとりが
他者の悲しみを理解する社会であればいい。
「つらいね」
「苦しいね」
と、声をかけてくれる誰かが側にいてくれたら、
少しは気持ちも軽くなる。
けれども、時代は変わった。
モノやカネには敏感に反応しても、
他者の悲しみを我がいのちの悲しみとして
うけとる機能がはたらかないようになりつつある。

イエスさまは「愛」を説かれた。
「愛」という言葉は、今かんたんに口にされ、
ピントの合わぬ言葉の遊びにもなっているが、
人の心を大切にする真心のことである。

お釈迦さまは「慈悲」を説かれた。
「慈」とはなさけで、
いのちをいつくしみ、育てるなさけ。
「悲」とは、
自他を超えた大きな悲しみと
私は修行時代に教えられてきた。

愛が失われた社会にはロボットしか思い浮かばない。
愛も慈悲もむずかしいけれど、
ぬくもりに満ちた社会を願う気持ちはある。
「色心互薫」という。
香りとぬくもりにいぶされながら、
人は育っていくのだと思う。

みずすまし41号(令和1年6月3日発行)

みずすまし41号表紙

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