仕事でめざめる

ブッダが悟りを開かれた場所は、
「菩提樹下道場」と呼ばれている。
あのブッダガヤーの霊樹の下が
真理開悟の場であった。
一方、「所在、是れ道場なり」という経文もある。
「今」という時と足元が道場という意味である。
木の下に坐る必要はない。
生きている今、
自分の立ち位置を道場と考えたらいい。

仕事に生きがいを見出している人はいる。
働くだけの人生は虚しいと考える人もいる。
幸福をカネやステータスに置く人もいる。
何が正しいのかと訊かれても一概には言えない。
でも、働くことで心は成長する。
人間には知性も理性もある。
知覚によって物事を認識する知性、
思慮的に行動する理性、
能動的、目的意識的な心の働きも持っている。
働くということは生きる手段であり、
同時に心を成長させる道場。
その真理をブッダは樹下で悟られたのである。

好きなことをして食べている人がいる。
いやな仕事をしながら食べている人がいる。
でも、働くことで心が成長する。
周囲から愛され、
困っているときに助けられ、
小さな親切に感謝され、
他者と関わるすべての行動に
自分の存在感を得られる幸せ。
今はそこに価値観を持てなくても、
それを幸せと思える時が来るだろう。
そんな時代はそこまで来ている。

私の寺では毎朝、境内を清掃している。
ほうきをもって掃く。
その作業は至ってシンプルである。
掃いたあとはきれいになる。
気持ちもすがすがしくなる。
きれいになった境内を見て
すがすがしいと思う心、
参詣する人の心を
清らかにしようとする気持ちが道場なのである。

いくら境内が清められていても、
落ち葉が混じった手水舎で口は漱げない。
毛虫が這っている木の下は歩きたくない。
危険なものは途中にないか、
修理しておいた方がいい箇所はないか、
人の身になって考えてみる。
言われたことをやればいい、というのではなく、
自分で考え、自分で行動する。
心の成長はそこから始まるのである。
何もお寺だけの話ではない。
「ノルマさえこなせばいい」
「給料さえもらえばいい」
それが一般的な考えだとしても、
豊かな生き方に、いつかめざめればいい。

最近、他人との関係づくりや、
コミュニケーションが苦手な人がいる。
そのために仕事ができず、
生きる意味を見つけられない人がいる。
でも、周囲の理解とサポートでめざめることはある。
社会適応力は汗を流すことから始まり、
仕事のおもしろさを知ることで身につくと知った。
人間は経験値によって成長していく動物である。
所在、是れ道場なり──
働くということはめざめること、
大きな人間になっていく大切な場なのである。

みずすまし40号(平成31年3月3日発行)

みずすまし40号表紙

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