笑顔のチカラ

経文(きょうもん)の中に「和顔愛語(わ げん あい ご)」という一節がある。
和顔とは穏やかな顔つき、
愛語とは思いやりのある言葉づかい。
この次に「先意承問(せん い じょう もん)」と続く。
先に相手の話を聞いて気持ちを察する。
つまり、自分が言いたいことを後に回して、
相手のことを優先し、
なごやかな笑顔と、
思いやりの言葉で人に接するということか。
スムーズな会話も周囲をなごませることも、
相手を中心として、
笑顔で接すると好印象を与える。

夫と妻、
親と子、
小さな暮らしに笑いがあれば、
一緒にいることが楽しくなる。
笑う心の奥に飛び交う天使たちが、
子どもの耳から入って来て心に住みつく。
小さな暮らしに必要なのは楽しい語らいである。

結婚以来、
夫婦で笑い合った記憶がないという男性がいた。
何もおもしろくない、
話すこともない、
部屋を家具で仕切ったあげく食事も別々。
彼は酒をあおり、
たまに話すときはつっけんどん。
めくじらをたてて互いに鬼の形相。
奥さんは毎日フラダンス通い。
彼は酒でフラフラ。
そのうち子どもが心を病んだ。
――離婚しようと思っています
彼女から切羽詰まった相談を受けた。
――決心したなら、そうしなさい
しばらく経って聞いたら、
「まだ別れていません」
いったい何に迷っているのか。
いつまで苦しみの淵にしがみついているのか。

「すべてささいなこと。
おもしろく考えるクセをつけなさい」
と、いつも私は語る。
日常の出来事はすべてささいなこと。
ささいなことに振り回されるからしわも増える。
「まあ、しょうがない」
「好きなようにすればいい」
少し広く、おもしろく考えてみる。
錆びた思考回路にオイルをさして、
楽しい方向に思い変えられたらいい。

いつも笑っている人は、
幸せだから笑っているのではなく、
笑うから幸せなのだろう。
笑うとセロトニンの分泌が促進されるという。
単に笑うのではなく、
心の底から笑うのが一番効果的らしい。
「ワッハッハッハ……」
これは周囲を明るくするだけではなく、
相手がさらに周囲の人びとを明るくし、
ひいては世の中を平和にする。
めぐり巡って自分も幸せにしてくれる。
笑顔のチカラをあなどってはいけない。
いつも鏡を見て表情筋の訓練。
「あんた、今日はがんばったね」
自分をほめる内容は小さなことで大丈夫。
いつも笑っていれば運も巡って来る。

昔の私には笑顔がなかった。
劣等感の塊だった。
でも、それを捨てることができた。
人の前に立つと緊張した。
でも、それを剥ぎとることができた。
楽しいことは楽しく、
おもしろいことはおもしろく、
いやなものはいや、好きなものは好き。
なりたくてもなれず、
しなければならないこともできないのが人間。
でも、できないことが必ずしも悪いことではない。
それに気がつき、自然体にもどることができた。
すべては、ささいなこと。
見栄を捨て、肩の力を抜き、
ありのままに生きることを決めた。
そこから笑顔が出るようになった。

私の父は不思議な人だった。
「和顔愛語 先意承問」を地でいく人だった。
けっして美男ではなかったし、
笑うと金歯がむき出しになった。
弟子が横で笑っていると、
「おまえ、口が大きいから、
笑うときは手を縦にして口を覆わず、
横にしなさい。ワッハッハッハ」
そして、よく口にした言葉が
「よか、よか。放っておきなさい。
そのうちにわかる」
長い時間をかけて気持ちを聴き、
法話もしたが、それ以上に
「あの笑顔で、気持ちが軽くなるんです」
と、人が集まって来た。
笑顔は幸福を与える魔法である。
「えらそうに!」、「テキパキしてよ!」
と苛立っても仕方ない。
思い通りにならないのが人間。
だから、生態観察に切り替えてみると
他人がおもしろく思えてくる。
笑顔は幸福を呼び込む魔法。
「ワッハッハッハ」、「オッホッホ」
笑う門には福来たる。
来年はこれで福の神を引き寄せよう。

みずすまし35号(平成29年12月3日発行)

 

みずすまし35号表紙

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