働くということ

みなさんは楽しく仕事をなさっているでしょうか。
最初は、だれでも仕事に対して理想や情熱を持っています。
やる気いっぱいのときには目が輝き、
仕事の内容をよく吸収し、
技術や能力も飛躍的に向上していく。
でも、そうした初心というのも、
やがては歳月とともに薄れていきがちです。
一般的に楽に食べていけるようになると、
ただ、この道を黙って歩いていればいい、
収益や給料が上がればいいと、
目先の楽しみだけを食べるようになる。
自分に合う仕事であっても、
いやなことに悩むうちに、
職場に通う足取りも重くなり、
五日働いて二日休むのではなく、
二日のために
五日働くという気持ちになったりするものです。
これでは生活費を稼ぐためのロボットのようです。
こうして自分と仕事が水と油のように分離していく。
なんとなく気分が重い、
働きがいが見出せない、
そんな気持ちになるのは
心の神さまが悩んでおられるからです。
流されて一生を終えるのもさみしい。
働くということがどういうことなのか、
その意味を理解しておくべきです。

「働」という語源は、
「傍を楽にさせる」ことから起こっています。
これは周囲を喜ばせたいと思う自然の感情です。
「好きなことをしてメシが喰えたらいい」
というのが最近の若者感情のようですが、
その奥にも喜ばれる存在でありたいという気持ちが宿っている。
これは心の神さまの要求かもしれません。

「職業」という文字の「職」は、
「耳」と「音」と「戦い」から成っています。
「業」とは行為のことです。
つまり、日々の情報に向き合いながら、
良い行為を積み上げていくということです。
このことは、
仕事を通して自分を高めていくということにほかなりません。
知識や技術も大切でしょうが、
人格を向上させられることが最高の幸せです。
なぜなら、人間はいつか死に到るからです。
死んでも霊魂はなくなりません。
真理を求めて向上の旅をつづけます。
生きているうちに、
心の修行をしておかねばならないのです。
 
寺にはさまざまな業者が来山されます。
受注契約を焦る営業マンもおられます。
そんなとき逆に訊くことがあります。
「この商談を成立させることが
君の人生にいったいどんな意味があるの?」と。
受注契約のノルマはあるでしょう。
けれども、朝から晩まで営業成績を上げるだけで、
人生を消費するのはもったいないことです。
営業という仕事は、
さまざまな人生を見聞する役得に恵まれています。
学びとることで、
自分を高めることができます。

発注したお堂が落成したとき、
瓦屋さんに話をしたことがありました。
「大雨が降ったり台風のときには
すぐにお見舞いの電話を入れるようにしなさい」と。
「雨漏りはありませんでしたか?」
「瓦は飛びませんでしたか?」
そのフォローがあるとお客さんは嬉しいはずです。
その喜びを自分の喜びとするところに
働く意味があり、
人生の価値もあるのです。

経営者は部下の心を育てるべきです。
効率は大事かもしれませんが、
そろばん勘定ばかりしていては部下は育たない。
「この会社で育ててもらった」
それが経営者にとっては最高の喜びです。
社員も働く意味を考えるべきです。
 
専業主婦に対しても同じことが言えます。
いらいらしたり、
愚痴ばかりをこぼしていてもちっとも楽しくありません。
家事が楽しくなるよう、
快適な暮らしができるよう、
家族を喜ばすことができるよう、
創意工夫の知恵を高めていく。
そこに人生の喜びもあります。
 
私の寺では毎朝仕事前のミーティングをしますが、
寺の職員たちに伝えたことがありました。
「仏像の眼は半ば開かれ、半ば閉じられている。
これは半分の目で外を見、半分の目で自分自身を見つめた姿です。
漫然と働くだけではいけない。
寺という場所は自分を磨き上げる修行の場である。
仏さまへのお布施を分けていただきながら、
修行をさせていただいていると思いなさい」と。

これはなにも寺だけではありません。
仏教では「所在、是れ道場」ということをいいます。
どういう仕事であれ、至る所に勉強の場はあります。
傍を楽にすることも大切なことですが、
自分を高めるところに人生の目的を置くと、
二倍の楽しみが生まれます。
こういう私もうっかりすると
他人に法を説くことだけに終わっていることがあります。
口だけが極楽に行ってはならぬと、

みずすまし30号(平成28年9月3日発行)

 

みずすまし30号表紙

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