「決める力」をもつ

仏陀(ぶっだ)のことを「大断徳(だいだんとく)」ともいう。
先のことを正しく予知して決断する。
仏陀はその叡(えい)智(ち)、人格を有しておられた。
神ならぬ身であれば完璧(かんぺき)な決断はむずかしい。
だが、即決が求められることもある。
ぐずぐずしたり、
尻込みしたり、
ためらったりして、
先延ばしすることは時間の無駄。
遅(ち)疑逡(ぎしゅん)巡(じゅん)――。
迷いが多いと大事は成し遂(と)げられない。

決める場合の要領としては、
第一印象を大切にするということである。
第一印象は物事を直感によってとらえている。
そこには全体の本質が把(は)握(あく)されているから錯(さく)誤(ご)が少ない。
迷いながら決める判断にはリスクがある。
刹(せつ)那(な)的、衝動(しょうどう)的な雑念がなければ、
第一印象は自己を具(ぐ)現(げん)する空(くう)の叡智といってよい。
熟慮(じゅくりょ)は必要であるが、
直感、ひらめきを大切にしたい。

誰かが奥さんのことを言っていた。
「この人、決めた後でも迷うんですよ」
デパートで買った洋服。
「これよりも、あれが、良かったかしら……」
一日かけて駆け回り、
あれこれ試着し、
まっすぐに見たり斜めに見たり、
時間をかけて決めたはずなのに迷う。
夫から言われる。
「また、あそこまで取り換えに行くというのか」
たしかに、
思い煩(わずら)う時間はもったいない。

物事を決める局面にはピンキリある。
ささいなことで言えば食事。
「今晩の献立(こんだて)、どうしようかな?」
食べたい物と合わせて、
家の食材を考えて決める。
人と会う場合、
「何時に家を出ればいいかな?」
約束の時間に間に合うように、
道のりを考慮(こうりょ)して自宅を出る。
こんな決断はたやすい。

しかし、重大な時もある。
受験、就職、結婚、離婚、起業、
病気の治療(ちりょう)法など、
重い決断を迫られる局面もやって来る。

私の大決断――。
それは四十から五十代の時であった。
寺や施設をつくるとき、
借金を抱(かか)え込むことになった。
石橋を叩(たた)いて渡る性格だったから、
神様から笑われた。
「カネなら銀行にあるではないか」
「新しい道に石橋はかかっていないぞ」
この言葉に決断が促(うなが)された。
その借金もまもなく完済する。
今ならできそうにもない。
あの時、決断しておいてよかった。

決断の方向を誤ることはあるかもしれない。
つまずくことがないとも言い切れない。
だが、迷うばかりで、
一歩も進まないよりもはるかにいい。
前に進むしかない境地に自分を置く。
砲弾(ほうだん)は狭(せま)い砲身(ほうしん)に閉じ込められるから前に飛ぶ。
自分を試す経験だけでも十分な価値がある。

幸福にもいろいろなカタチがある。
うまいメシが食えること、
平穏(へいおん)な道のりであること、
人の役に立つこと、
選択(せんたく)はそれぞれの自由である。
だが、人生は一度きりなのである。
決めきれない心のメカニズムには思考の癖(くせ)がある。
完璧にやらなきゃならないという思考は捨てよ。
絶対、完璧というものはない。
決めたからといって成功するとはかぎらない。
人生は試行錯誤。
失敗から逆転人生が開けることもある。
要するに勇気。
やりたいこと、
やらねばならないことを避(さ)けるのは、
勇気がない証拠(しょうこ)なのである。

日ごろ、青少年に教えていることがある。
随(ずい)時(じ)判断。
適(てき)宜(ぎ)決断。
即(そく)時(じ)行動。
結果がどう転ぶかはわからないが、
やってみたい方向に決める方がいい。
意見を聞く機会はあってもいいが、
それも最後は自分の決断。
しかし、決めたら動け。
山あれば山を越え、
谷あれば谷を越え、
目的地をめざせ。
一心不乱、
縦横無尽(じゅうおうむじん)、
そんな人生がおもしろい。

みずすまし33号(平成29年6月3日発行)

 

みずすまし33号表紙

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